先日、上海市政府が企業に対して行う営業再開補助政策として「新型コロナウィルスの関連情報」を紹介しました。今日から実際の企業経営にどのような影響があるのかについて、ご紹介したいと思います。
なお、政府が講じている政策や対策を賛否する内容ではなく、現状における企業経営の問題を整理した内容であり、経営要素である「カネ・ヒト・モノ・情報」という角度から順番で説明します。日々状況が変わっていることを念頭に置いていただいて、ご一読ください。
前回のヒトに続き、今回は「モノと情報」の話をしましょう。
売上激減、固定費用横ばいという状況に置かれている多くの企業は、「モノ」を仕入する意欲も力もありません。売上がない、売上回復の目途も立たないときに、原材料や商品を仕入する必要性もなければ、意欲もないでしょう。例えば仕入意欲があり仕入しようと思っても、その仕入れに必要な資金という「カネ」の力が不足かもしれません。それは前々回の「カネ編」で説明しました。
仕入の意欲もあり力もあれば、「モノ」は入手できると思うのはまだまだ早いです。まず、必要なものがあるかどうかという問題を考えましょう。
現代社会は分業化が進み、サプライチェーンの複雑化とプロセスは増す一方です。製造業にとって、このサプライチェーンにおける仕入先等のどれか1つでも「モノ」の調達ができなければ、稼働再開できなくなる可能性が高いです。今回の全国的な疫病により、全ての企業は「カネ」、「ヒト」の問題に直面しており、復帰できていない会社はまだまだ多いです。サプライチェーンの断裂により、自社だけで生産を再開しようとしても「モノ」がない状態に陥っている会社は少なくないはずです。製造業がこのように「モノ」がなければ、貿易業にも当然「モノ」がありません。
会社によっては運良く仕入先が全て供給できる状態であっても、今度は物流会社の状況によって「運ぶ」問題が待っています。
倉庫は一時的に封鎖されたところが多いです。例えば、多くのEC関連企業にとって、外注も含めたそれぞれの倉庫再開許可を取得できたのは2、3日前のことです。再開許可を取得しても、実際に倉庫管理、運営をする従業員はどれぐらい出社できるかも不明です。
工場にとっては倉庫を使用せずに直接納品することはできますが、道路が遮断されているため、簡単には納品先へ行けません。疫病の重点地域から来た車は追い返す、全車両の乗客全員に対する体温測定とトランクなど人が隠れられる場所に対しての厳重なチェックなど、厳しい措置が各行政地域の境界で行われています。厳しい街では、車両ナンバーによって自分の町以外の車両は全て入場禁止まで執行されます。図1の写真は、先週とある高速出口で撮影された標識の写真ですが、ここには「入場禁止の車ナンバーの所属地域」が明記されています。この制限地域の数は、今後更に多くなります。
図1
「モノ」を運ぶトラックは、このような制限に引っかかれば「モノ」が到着しません。引っかからなくても、体温検査や車両検査によって通行効率が非常に悪くなります。つまり、「モノ」があっても運んで来られないか、遅延して運ばれるかという問題です。交通運輸部(運輸省)は道路遮断などの企業復帰妨害行為を禁ずると通達していますが、疫病防止という大義名分の措置に対抗する効果は期待できません。
宅配、特に市内宅配は比較的受ける影響が少ないです。ただし本来ドアまで持ってくるはずの宅配は、団地やオフィスビルの制限により、配達員たちは顧客に電話して取りに来るのを外で待つしかありません。配達の効率低下は避けられません。人手不足に効率が悪いことが重なり、事務用品・食品などの流通も鈍くなっています。
モノが不足している、モノが動かないという現状はしばらく続くでしょう。
ところで、「カネ」、「ヒト」、「モノ」の不足に対して、情報が多すぎます。
疫病に関する知識・治療方法・防止方法、疫病の伝染区域・感染人数・活動範囲、住民・企業に対する制限・手続き・注意事項などなどの情報は、政府が毎日発表及び更新をしています。それに対してWechatなどのSNSでは、個人・企業が評価、批判、非公式情報をいつでも発表できます。双方の情報を集約すると想像もつかないほどの情報量になります。
情報が多過ぎることは、情報がないことと同様に困ります。なぜなら、多過ぎる情報から正確且つ有用な情報を選別するのはなかなか難しいからです。ちょっとした不注意で間違った情報に基づいて意思決定を行うと、大変な結果になってしまいます。何を信じて良いか、何を信じてはいけないのかを、日々心配しながら情報を見て聞いている内に、疲れてしまい、誤って判断・行動してしまうことまで考えられます。 また、この2、3日の間、心理的な健康にも注意した方が良いという呼びかけは、公的機関、SNS上にポツンポツンと出てきています。精神的、心理的な限界を感じている人も多くなっているでしょうね。その根本的原因は情報の錯そうではありませんか。
情報の嵐が来た時、冷静に見極め、選択し、利用することはそう簡単にできません。しかし、情報化社会になっている以上、それは「カネ」、「ヒト」、「モノ」をコントロールすることと同様に、経営者・管理者の基本として習得し、磨かなければなりません。
新型コロナウィルスによる肺炎の影響は、将来経済学者が評価してくれるでしょう。企業の経営者・管理者にとっては、まず会社が生き延びることに専念しなければなりません。それは危機管理の第一目標です。
正しい情報を掴んで、限られている「カネ」と「ヒト」を利用し、「モノ」を一刻でも早く製造・流通させる。その基本的社会のサイクルを回復させながら、混乱となっている市場ではどこに新たなビジネスチャンスが潜んでいるのかを探り、掴みに行くように準備・行動する経営者もいます。
「危機」という単語に二文字があります。「危」は今回のような危ない状況を指し、「機」は機会だと理解します。危ない状況の中に機会も隠れているのは「危機」という単語の真意だと多くの経営者が認識しています。
今回の新型コロナウィルスの肺炎によって、企業は一回洗礼を受けます。経営者たちはその危機を乗り越え、これからも拡大し続ける中国マーケットで更なる成功を獲得することを、心からお祈り申し上げます。