前回、上海市政府が企業に対して行う営業再開補助政策として「新型コロナウィルスの関連情報」を紹介しました。今日から実際の企業経営にどのような影響があるのかについて、ご紹介したいと思います。
なお、政府が講じている政策や対策を賛否する内容ではなく、現状における企業経営の問題を整理した内容であり、経営要素である「カネ・ヒト・モノ・情報」という角度から順番で説明します。日々状況が変わっていることを念頭に置いていただいて、ご一読ください。
会社は資本金の投入からスタートしますので、まずは「カネ」のお話をしましょう。
先日ご紹介した上海市政府の「28条」を読みますと、その中には「カネ」に関する内容が大半を占めています。融資の強化、税金・法定社会保険の延期納付、家賃の減免などは、企業が「カネ」に困っていることがここに浮彫となって表れています。では実際に企業、特に中小企業にとってどのように困っているのかを見てみましょう。
資金繰りはイン(入金)とアウト(出金)の二つの方向があります。大半の企業は「入金が減少、出金が横ばいまたは増加する」という状況に置かれているのが現状です。当然、手元の現預金が減っていき、既存現預金が底を着いた時、店締めとなります。その理屈は経営分析によく使われる「安全性」、「強靭性」などの指標より更に直観的であり、緊迫性もより感じられます。
業種・各会社の特徴・状況によって今回受ける影響は異なりますが、外食産業を中心とした説明を行います。
一番困らない会社は「カネ」を沢山持っている会社に間違いありません。売上・回収がゼロであっても、半年以上の固定費用分が現預金としてある企業は余裕で休めるでしょう。羨ましいです。
入金が減少、支出が減少しない状況に陥った会社の中で、手元にその様な十分な「カネ」を持っていない会社は多い事でしょう。特に中小企業が大半を占めている飲食業、小売業のような企業への衝撃は大きいです。春節(旧正月)の特別需要に準備した食材、商品は山積となって、その分売上がなければ当然「カネ」として戻りません。たくさんの「カネ」は、食材・商品になって戻らない上、店舗の家賃、従業員の給料を払い続けなければなりません。「カネ」は火の車になっている状況が想像できます。
資金繰りは入金と出金しかありませんので、その状態を悪化させないために会社は転機が来るまで一日でも長く生き延びるために入金を増やし、出金を減らす方法を考えなければなりません。飲食業を事例にして、その対策を紹介します。
どこのレストランでもほとんど顧客がいない状況をしばらく続くことは予測されます。通常の割引などの手段を講じても顧客は来ないこともわかります。入金を増やす方法は二つしかありません。一つは出前、もう一つは食材の販売です。
人は家から出なくても一日三食が欠かせません。市場・スーパーに行って食材を購入し、自分で料理することを、特に一人暮らしの若者を中心に、面倒だと感じる人は今の上海では少なくありません。本来外食する顧客に対する出前サービスをスタートさせた高級レストランも含む店舗は多くなっています。筆者にとって、今後出前の選択肢が広がれたと嬉しい期待もありますが、店によって今回の危機からビジネスチャンスを見えたところもあるでしょう。
たくさんの在庫食材を出前だけでは消化できなければ、その食材をそのまま、また簡単に加工して半製品として販売することも実施されています。疫病防止によって、交通遮断、検査強化された高速道路、一般道路が多くなり、物流が遅れ遅れになっています。そのため、一部の市場・スーパーマーケットに食材が品薄状態になり、値段も上昇傾向にあります。その時、上海市政府は臨時措置として、レストランは在庫の食材また簡単加工した半製品を直接顧客に販売できるように許可しました。市場にとって食材の供給が増え、レストランにとって在庫消化によるキャシュー・インになることで、一石二鳥の措置です。
入金の努力と同時に、出金を減らすか延期させる努力もしなければなりません。家賃と給料はレストランにとって最大の固定費です。上海の「28条」政策に家賃減免の内容もありますが、条件は厳しく、大半のレストランは国営の不動産部件より私営か個人の物件を借りています。大家さんはその家賃を減免する義務がないので、相談してよい条件を引き出すしかないでしょう。特に借金によって購入した物件の大家にとって、家賃の免除によりローンの返済まで困ってしまうことも考えられます。ダメもとで交渉するしかなく、痛み分けによって困難を一緒に乗り越える道理が通じる大家であることを祈りましょう。
確実に努力できるのは人件費です。極端のやり方は労働契約を中止させることですが、人員整理は法的に強制退職金を払わなければなりません。すでに不足しているカネはその退職金でさらに悪化してしまいますので、その方法は使えません。 上海市労働局の通達では、疫病期間中に給料について、企業と従業員の間に協議することはできると発表されました。また一つ「痛み分け」の対策として、その政策発表を歓迎します。レストランにとってその交渉に二つの実務問題が考えられます。一つは出稼ぎ労働者が多い産業として、今回の隔離措置によってまだ上海に戻ってきていない従業員が多いです。電話、メール、SNSを使った交渉の効果はFace to Faceほど期待できません。二つはレストランの従業員は全般的に給与水準が低い現状を考えると、そこからの交渉余地はあまり多くないでしょうね。困難ではありますが、交渉しましょう。
昨日、なかなか感心できるニュースを見ました。レストランと同じ出稼ぎ労働者が多い配達企業には人手不足が深刻化になっています。人員流動の制限により市民は自宅、会社に居て、ネットショッピング、出前が増えているのに、人員流動制限措置によって春節で帰省した配達員たちは戻ってきません。その状況を察知して、顧客がいないレストランの従業員を人手不足の配達企業に貸し出すことを政府は斡旋すると発表しました。貸し出されたレストラン従業員の給与は配達会社が負担することによってレストランの人件費減少につながります。それに拍手します。
レストランを一つの事例として紹介しましたが、カネの減少を遅らせることは各業種、各会社で努力しています。一方、会社操業開始後のカネ問題も考えなければなりません。「生き延びる問題」に対して、それは「再スタート問題」と筆者が考えます。引き続きレストランを例にして考えましょう。
疫病は収束になり、しばらく外で遊んでいない人々は新鮮空気を求めるように街に溢れ出ます。外食業の「春」が来ました。しかし、疫病期間で消耗したカネによって、今度食材の仕入れに必要なカネが足りなくなります。せっかく来ていただいた顧客に料理を提供できないのはとんでもない機会損失です。しかし、カネはどこにありますか。
カネの調達方法として、増資と借入するのは一般的でしょう。投資者による増資は投資者との相談ですが、金融金機関から借り入れるのは今までの経験上難しいです。そのため、上海の「28条」にこのような企業への貸付緩和は明記しています。 早めに、投資者と銀行などに聞いてみましょう。
いくら良くても、金融支援策は栄養剤的な存在です。根本的に自社の努力によって危機を乗り越えるしかありません。レストランの奮闘記によって、皆さんに何かヒントを与えて、啓発になれれば幸いですね。 次回は引き続き「経営編」の「ヒト」を発表しますが、乞うご期待ください。