2020年の春節は、新型コロナウィルスの大流行により恐慌が広がり、春節の連休が10日間に延長されても一向に収まらないまま、2月10日には上海のほとんどの企業が営業再開となりました。
2月11日、WHOは新型コロナウィルスによる肺炎を「COVID19」と正式に命名しました。 その厳重性が改めで強調されたと思われます。この伝染病との戦いに一番有効な手段は「隔離」であり、拡大防止による社会経済活動へ多大な影響は容易に想像できると共に、既に現状においてその影響を実感しています。
企業の営業再開支援及び大きな影響を受ける企業への補助として、上海市政府は2020年2
月8日に28項目の政策を発表しました(以下、「 28 条」と称する。)。
今回の「誠鋭時事」では、実務の角度でこの「28条」を解読します。条文の直訳ではなく、筆者が理解した上での説明であることをご了承ください。
主に疫病の治療・防止製品関連の企業に対する支援である
1)疫病の治療・防止を重点とする企業に対する全力的支援
疫病治療・防止に関係する製造業、物流企業等に対して、企業所得税、増値税の減免を実施する。指定される製造企業の赤字を財政によって補填するなど、財政的、税務的優遇をする 。
2)疫病の治療・防止重点企業に対する金融的支援
該当企業に対して政府は、利息の半分を補助し、銀行を中心とする金融企業は年利1.6%以下の流動資金を提供する。金融企業には、疫病の治療・防止が目的とされる債券の発行を政府が支持する。
3)疫病の治療・防止関連企業の融資ルートを広げる
基本的に該当企業の融資方法を多様化させるような内容である。
4)保険・保障の機能の強化
疫病の治療・防止に関連する商品の輸入に対するL/Cの発行、今回の新型コロナウィルスによる病気を健康保険の保証範囲に入れることなどの内容である。
5)疫病の治療・防止重点企業の生産と輸入拡大を支持する
該当企業の生産拡大に必要とされる技術開発などに対しての財政補助。
関連商品の輸入拡大による今後販売できない商品を、政府が買い取るといったような内容である。
6)疫病の治療・防止商品に対する関税優遇
該当寄付商品に対して、増値税及び消費税の免税を実施する。
上海市政府により、購入する該当商品に対して免税を実施する。
7)疫病の治療・防止商品の通関利便を図る
該当輸入商品の24時間通関体制の確立などの措置によって快速通関を実現させる。
8)疫病の治療・防止に関する新商品の研究開発を支持する
該当新商品開発のプロジェクト設立、資金支援などの支持方針を示す。
前第一項目と比較し、対象企業はより広げられている。
9)家賃を減免する
上海市における国有企業の経営性不動産を借りている中小企業に対しては、まず2月、3月の家賃を免除する。
その優遇を受けられる条件は2つあります。
①大家が国有企業である
非国有企業の大家に対して、政府はできれば家賃の減免を呼びかけていますが、強制的ではない。
② 該当不動産は「経営性不動産」である
不動産の性質は経営性であるかどうかという判断に曖昧の部分があり、大家さんにより判断されるところもある。
上記二つの条件を全て満たさなければ受けられない。
10)納税延期申告
今回疫病の影響を受けて月次納税申告が遅れた場合、納税申告と税金納付は最長3ヵ月延期することができる。滞納金、罰金は課さない。
当然、全て事前に所轄税務局の審査・許可を取得しなければならない。
11)疫病の治療・防止に関係する企業と個人の税金優遇
疫病治療・防止のために、国に不動産または土地を借用される企業に対して、不動産税及び
土地使用税の減免。
今回の疫病によって大きく影響を受けた企業の赤字繰越は、5年から8年に延長できる。
疫病治療・防止のための寄付は全額税前控除でき、該当寄付モノの増値税・消費税・付加税は免除される。
疫病治療・防止活動に参加する医療関係者の手当、賞与などの個人所得税は免除される。
12) 定額納税の個人事業主は免税
13) 旅行社に「旅行品質保証金」の臨時的返却と、一部「文化事業建設費」の納付サービス企業に対して、疫病の影響度合いによって補助を実施する。
14) 多ルートによる企業への資金提供
疫病により大きな影響を受ける企業または中小企業に対して、浦東銀行、上海銀行、上海農商銀行の融資を促し、その利率はLPR(市場形成利率)より0.25%を引き下げる。
他の金融機関に対しても同様な条件を薦めると共に、金融機関の与信条件を緩和させるように促す。
15)流動性の悪化した企業に対する支持を強化する
旅行業、ホテル業、飲食業、小売卸業、運送業、倉庫業、娯楽業、会議・展示業など、疫病に大きく影響される企業に対して、貸付の延長や返済方法の変更などの措置を取り、貸付を継続させる努力をする。
与信評価基準を緩和させる。
16) 融資の担保を強化する
政府による融資担保基金を30億人民元以上増額する。
疫病の治療・予防に関連する企業または疫病の影響を大きく受ける企業に対して、より多い政策的担保を実施させる。
新規申請する中小企業の担保費用率を年0.5%まで引下げたうえ、半額で徴収する。
新規設立企業に対しては、担保費用を免除させる。
17)従業員数が安定している企業に対して、前年度に納付した「失業保険金」の50%を返却する。
18) 法定福利厚生費基数の調整を延期する
毎年4月1日に上海の法定福利厚生費基数が調整され、今まではこの基数は上昇する一方である。2020年の基数調整は7月1日に延期させることによって、その上昇を遅らせ、事実上企業負担社会保険を3か月間低減させるという趣旨である。
19) 法定社会保険金の延期納付
疫病の影響を受けて、法定社会福利厚生費納付に困難な企業及び個人は、事態収束後の3ヵ月以内に延期納付することは可能である。滞納金、信用システムへの不良記録登録などの罰則はしない。
20)教育、トレーニングを促進する
新型コロナウィルスによる業務停止の企業は、従業員に対してネットによる教育やトレーニングを実施する場合、該当費用の95%を補助する。
21)法定医療保険納付率を引き下げる
2020年度の法定医療保険納付率を0.5%引き下げる。
22)勤務形式の多様化
企業と従業員の協議によって、給与・勤務時間などの調整を実施する。企業にとってその実施ポイントは、従業との協議一致というところである。
23)企業の復帰を督促、補助する
企業復帰に必要なもの、防犯対策としてのマスク、温度計、消毒液などの供給を中心に補助を行う。
24)企業の人員不足の問題を察知し対応する
疫病の情勢が安定している地域より戻った従業員を優先的に復帰させ、インターネットやWE CHATなどを利用して、企業の募集活動を補助する。
25)新技術、新モデル、新業態の企業の発展を支持し、育成する
ネットショッピング、(ネットを利用した)在宅勤務、ネットサービス、知能配送などの企業を育成する。
26)企業に対する政府サービスの強化
主にインターネットを利用して行政手続きを行うことにより、企業は各窓口へ行く手間を省かせる。
27)企業信用修復機制
新型コロナウィルスによる信用評価が降下させられた企業(例えば延期納品、借入金返済延期、契約違反など)に対して、ブラックリストに載せない。
国際貿易における違約が発生した企業に対して、政府は「不可抗力証明」を発行する。
28)法律補助を強化する
以上は上海市政府が発表した「28条」の全文です。
緊急で発表した政策ですので、実務的に実施できていないところも多いです。
実際に優遇を受けるときに、相手(政府または企業・個人)に事前確認し、実施条件・必要書類と手続きを把握することをお勧めします。
上海以外の各地方にも各自の状況に合わせて企業に対する補助政策が発表されています。その情報収集をし、早期の会社経営正常化に努力をしましょう。