先日、上海市政府が企業に対して行う営業再開補助政策として「新型コロナウィルスの関連情報」を紹介しました。今日から実際の企業経営にどのような影響があるのかについて、ご紹介したいと思います。
なお、政府が講じている政策や対策を賛否する内容ではなく、現状における企業経営の問題を整理した内容であり、経営要素である「カネ・ヒト・モノ・情報」という角度から順番で説明します。日々状況が変わっていることを念頭に置いていただいて、ご一読ください。
前回のカネに続き、今回はヒトの話をしましょう。
新型コロナウィルスによる肺炎は人と人の間で伝染されており、一番有効な防止方法は隔離であるため、会社経営要素である「ヒト」に対する影響は直接的です。今日は2月17日(月)、上海の法定営業再開日である2月10日から丁度一週間が経ちました。先週と比べて街に通勤する人や車が多くなっている事を実感をしています。今回の紹介は一人の従業員が出勤できるまでのストーリーからスタートします。
今回の疫病流行による規制は春節(旧正月)の里帰りピークの後に発令されましたので、現地人以外の従業員はほとんど故郷に帰った後に人員の流動が規制されています。
故郷から現住所(会社所在地)に出るために、所属会社から「会社再開証明」を提出しないと、飛行機、新幹線、電車などのチケットを購入できない地域が多いです。地域によっては、その証明を持ってまず現地の病院で検診を受けなければならいところもあり、特に湖北省などの重点地域はより厳しく執行されています。当然ですが、武漢のように町全体が封鎖されている地域からの証明があっても出られません。
会社が発行する「会社再開証明」を関門①とします。
上海市では先週から、上海戸籍と「上海に仕事があり、現住所があり、不動産を所有している」といった条件を満たしていない人が入らないような政策が実施されています。その条件を満たした武漢などの「重点地域」から戻る人に対しては、14日間の自宅隔離の措置が取られています。つまり、例えば街に戻れても自宅隔離されるため、14日間出勤できません。
上海以外の町では、一律現地人以外入れないような厳しい政策を実施している地域も少なくありません。
現住所の町へ戻るときの検査は関門②とします。
町に戻れても、今度は住んでいる団地に入るのも一苦労です。
団地、住宅などは町内会のような組織により厳しく管理されています。出入口を一つだけにし、24時間管理者がいるような体制、そしてその町以外の地域から戻った人の自己申告制度が導入されています。重点地域から戻ってきた人がいれば、14日間の隔離は不可欠です。
出入するときに全員体温検査されるうえ、住民に特別通行書が発行されます。厳しいところは、一世帯に1枚の通行証しか渡されず、追加したい場合、その分の「会社再開証明」を提出しなければなりません。笑えない笑い話ですが、「会社再開証明」に必要な会社印を管理している住民が「会社再開証明」を発行しに会社へ行けないような理不尽事件まで聞きます。
団地から出かけられることは関門③とします。
工場を中心とする会社の再開は所轄政府部門に申請して、許可されなければなりません。特に工場は厳格に執行されていますので、許可されるまで、上記関門に必要とされる「会社再開証明」ですら発行できません。マスク製造など疫病治療・防止関連製品を生産する工場以外の一般的工場は重点地域以外、今週から復帰できるところが増えるでしょう。
一方、商社などが入居しているオフィスビルの管理も厳しいです。上海以外から戻って来た人の中に、14日以上上海の滞在歴がなければオフィスビルに入れさせてくれないところが多いようです。中国では身分証明書によるID管理がされており、実際に過去14日間どこに出かけたかという記録は簡単に調べられます。すでに携帯電話では自分でも調べられるようなアプリがダウンロードできます。つまり、オフィスビルに行く日から14日遡り、上海から出たことがない人以外、出社できません。
出社するのは関門④とします。
上記関門①~④は里帰りした社員の出社条件です。地元の従業員でも関門③と④を突破しなければ事実上出勤不可能です。やっと出社できる社員が会社に来たら、次の問題が待っています。
筆者はそれを「肉体的」と「心理的」分けて紹介します。
人は働く環境によって稼働率が変化する。今回の新型コロナウィルスによる肺炎は伝染病として、集中空調によって人と人との間で伝染してしまうのではないかという説がありますので、まずオフィスの集中空調は使えません。一方そのような伝染病はオフィスのような人が集中している場所において、窓を開けて換気させることは予防に非常に有意義であることもわかります。
季節的に春とはいえ、早春の2月中旬で気温が低く日中でも5度ぐらいしかない日が続いている上海の高層オフィスビルの中に、暖房なしにできるだけ窓を開ける環境は想像以上に寒いでしょうね。その「寒い」という理由で、出勤を諦める人も少なくありません。
また、心理的障害もあります。
毎日のニュースのほとんどは疫病治療と防止関係、一歩でも家から出るとマスクの着用義務、他の人と距離を取る心掛けの緊張感。やっとオフィスについても退社までずっとマスクの着用が要求されます。このような雰囲気はいつまで続くかもわからない日々を過ごすとは、心理的障害になってもおかしくないでしょう。そのため、精神的な理由で出社拒否する人もいるようです。
また、緊急社会的規則で出社できない従業員、肉体的精神的理由によって出社できない従業員に対する会社の対応も悩ましい問題です。
在宅勤務は通常勤務とみなすという共通認識があるので、その対応は簡単です。しかし、在宅勤務できない仕事において、会社は復帰申請がなかなか批准されない、従業員は上記関門①~④などの原因で出社できない場合、会社として、該当日数分給料を払うかどうか、有給消化として処理できるかどうか、ちょうど出社できない期間に労働契約期間が到来したら中止できるかどうかなどなどの法律的、社内的な問題が多いです。弁護士との相談が必要でしょうね。
ヒトは直接疫病の影響を受け、社会的に色々な緊急措置にも引っかかり、自主的に考えて行動できる経営要素として、そのコントロールは最も困難でしょうね。
日系企業において、日本人中心の経営陣は帰国されているところは多いです。このような状況に置かれている中国子会社は現地幹部により運営されているが、それを機会に中国進出している日本企業の(ヒトの)現地化は一層進歩できればと期待できる点もありますね。
次回は引き続き「経営編」の「モノ」と「情報」を発表しますが、乞うご期待ください。