誠鋭時事新型コロナウィルスによる影響~日系企業の現地化~

新型コロナウィルスによる影響~日系企業の現地化~

新型コロナウィルスによる肺炎の影響が世界に拡散し始めました。中国の状況は落ち着き始めていますが、韓国・イタリア、イランなどの国では急増している模様です。日本も楽観視はできず、東京オリンピックへの影響もまだまだ心配が残るところです。

中国国内の中でも比較的落ち着いている上海では、他の地域と同様に、韓国・日本などの国からの入国者は強制的に14日間隔離することを発表し、その目的は海外からの新型コロナウィルス逆輸入を防止することだとしています。一方、日本も中国全土・韓国などの国からの入国者に対して14日間の隔離政策を発表しました。

経営コンサルティング会社としては政策の賛否を議論するより、その政策が企業経営に与える影響を優先的に考えなくてはなりません。日中両国による相手入国者に対する14日間の隔離政策は入国禁止とまでいかなくても、事実上人員流動を遮断することになります。出張では双方の隔離期間によって28日間何もできない状態となる為、当然出張はあり得ません。春節、新型コロナウィルスの流行により日本へ帰国した現地駐在員達は、駐在地の仕事復帰と飛行機での感染リスク、また隔離政策によって駐在地へ帰る事を悩んでいる人も多いでしょう。

今回の新型コロナウィルスによる肺炎は丁度春節の連休(1月24日から7日間)の直前から爆発敵に拡大し、2月9日の春節特別延長により連休は半月以上となり、事実上1か月以上休まざるを得ない工場、会社も少なくありません。世界工場といわれている中国の長い連休は、世界のサプライチェーンに対する影響度合いが容易に想像できます。特に中国に対する投資が大きい日本において「China+1」、「China-1」の議論はすでに熱くなっています。対中投資戦略の議論と同時に、おそらく中国子会社における日本人駐在員に対する方針も見直す機会になるでしょう。

日本の中国投資ブームにつれて中国に駐在する日本人数は一時的に急増し、その後の反日運動によって駐在員数は減少し始めました。外務省の「海外在留邦人人数調査統計(令和元年版)」によると、平成30年10月1日現在上海に在留する日本人は40,707人で、その前の年より約2,700人減少しました。駐在員の減少傾向はこれからも続くと思われますが、今回の新型コロナウィルスによる隔離政策を中心とした拡大防止策は、現地日系企業における現地化を加速させることも考えられます。

ヒトの現地化は上記の統計数字にも反映されていますが、市場・製造・技術・経営管現地化の結果でもあります。

日本・海外の市場のために中国でモノづくりする時代は去っていき、中国市場を勝ち取る進出が主流になりつつあります。中国人にモノを売るためにプロモーションを企画するのは日本人のマーケティング責任者、代理店は全て中国民営企業なのに日本人の営業部長による交渉などなど、不思議な現象は以前より減ってはいるものの、まだまだ多いのが現状です。BtoBの世界において、販売先・仕入先は日系企業ですので、こちらも日本人営業・仕入責任者を置けば話しやすいと思いますが、今まで現地化によって周囲の日系企業の購買・営業責任者が現地中国人に変わっても、なぜか変化を求めない日系企業もまだまだ多いですね。

生産管理を中心とする製造の現地化は、今まで現地責任者の育成といった人的要素と生産管理システムの導入といったIT化要素によって進めています。新製品の立ち上げ以外、日本人技術者の常駐・出張はほとんどいらない工場が増えています。当然、知的財産保護の観点から日本人でなければならない場面もありますが、それ以外のポジションについては現地従業員に任せられるかどうかの検討はされるのでしょう。

市場、製造、技術の現地化に比べると、経営管理の現地化は更に難しいです。「日系企業の総経理は日本人でなければならない」という根強い思い込みを別にして、根本的原因は「信頼」にあると筆者は考えます。日本の親会社と子会社現地人経営者の信頼関係を構築させるのは相当難しいことです。言葉を中心とするコミッション能力、日本の親会社の経営方針・中国進出する戦略に対する理解力、経営力、コンプライアンス・ガバナンス遵守における自制力を持っている現地人経営者を探し、育成することは容易ではありません。それに比べて日本本社から既に信頼関係がある従業員を中国子会社に出向させることが簡単であることは容易に想像がつきます。能力が多少欠けていても、3年~5年ぐらい任期満了して帰任することを考えると、その出向経営者は親会社の言うことを聞くのが一般的です。それは親会社にとって「信頼」の保証にもなります。現地法人ではなく、親会社ばかりに顔を向いて仕事をしている現地経営者として、そのような出向制度に対する批判的な意見もありますが、日本の親会社との信頼関係を構築する面においては、選択肢、特に進出当初の選択肢としてその合理性はあるのかもしれません。

しかし、それは長期的な中国進出人事戦略としては今後通用されにくくなります。反日運動や今回の様な新型コロナウィルスによる影響など、両国制度、文化、歴史の差異によって中国に駐在したい候補者が減少し、日本の親会社としても中国への駐在リスクを高く評価することにより、出向させること自体を躊躇する企業が多くなることでしょう。一方、中国は入国制度における仕事ビザの発給条件を高くさせることによって、駐在できる日本人も少なくなることでしょう。また、今まで外国人に対する個人所得税の優遇である「住宅手当、子供教育手当」などの免税政策は2021年までに終了するというような政策変更により、これからの駐在コストは大幅に上昇することが確実になります。つまり、日本から中国に駐在したい日本人も駐在させたい企業も減少し、中国も絶対必要でない駐在者は来ないで欲しいという姿勢が明確になっている環境変化によって、駐在員を柱とする中国子会社の人事制度の執行土壌がなくなります。

筆者は駐在員を批判している訳ではなく、3年~5年で交代し、権限も責任も不明確な駐在員制度の弊害と、今後その制度執行の困難点を述べているだけです。そして、日系企業として経営管理者までの現地化を真剣に考え、推進しなければならない時期になってきていると考えます。

今回のコロナウィルスによる日中両国間の人員流動制限は、現地日系企業に3週間から1か月以上も日本人が誰もいない状況を作っています。日本人がいない時期、会社運営にはどの様な影響が生じたかを、日本の本社及び現地子会社が真剣に検討すれば、きっと日系企業現地化のヒントが見つかると思います。

弊社は、現地化のご相談、お手伝いなど、いつでもご用意しております。